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「だからさあ、最近つかれてんのよねえ」 有田亜紗子は、最寄の駅前の商店街の一角にある小さなスナックで、友人の野川真由子に愚痴をこぼしていた。 そのスナックは通信カラオケも設置されている、ごく普通の店だ。客は平日ということもあって、二人の他には年配のサラリーマンが一人だけだった。 「ダンナさんが?」 「そうなのよ。もしかして浮気でもしてんじゃないのかなぁ」 真由子の問いかけに、亜紗子はけだるいような表情で物憂げに答える。 「まさかあ。そんなわけ……」 亜紗子の伴侶は34才。サラリーマンで、PCネットワーク系ソフトの会社に勤務している。トラブルの多い職業柄、泊り込みで働く事もそう珍しくない。 優しい性格が取り柄というだけの、いたって風采の上がらない男で、はためには浮気をする甲斐性など、まるでないように見えた。 「でもね、ホントについ最近なのよね、そういう風になったのって」 「単純にさ、仕事が忙しいんじゃないの?」 「そんなわけないわよ。彼の会社、リストラがきついって言ってたし」 「ふうん。じゃあなんだろ」 「ちょっと前まではさあ、しつこくって大変だったのに……。いいわよねえ真由子はさ、結婚してまだ1年くらいだし」 「私んところはダーメよ。そんな強くないし、しかもハヤいし」 「でも若いからなあ……、あんた、年上女房でしょ?」 「甘えられてばっかでさあ、ホント疲れるわよお」 10年前に地元の短大を出て就職し、3年ほど勤めた挙句に今の亭主と職場結婚した亜紗子には、同じ短大の同期生である真由子が、6つも年下の、ビジュアル系風の容姿を持つ大型トラックの運転手とつい最近結婚したのが、うらやましくて仕方がなかったのだ。 「でもいいわよねえ。まだまだこれからだしさあ」 亜紗子は中身がすっかり薄くなったウーロンハイ入りのグラスを肘をつきつつ持ち上げ、カラカラと音を鳴らしながら、ため息を吐くように呟いた。 したたかに、酔いが回っていた。 「あーあ、もうデキあがっちゃってるわよ。もう帰ろっか」 「やあだ! まだ飲むのお!」 「もう時間もいい頃だしさあ……」 真由子はカラオケ機械の上に掛かっている時計を見ながら、亜紗子に諭すように言った。 亜紗子に呼び出されて仕方なく付き合ってはいるが、真由子は一刻も早く自宅へ帰りたかったのだ。 理由はもちろん、一刻も早く、いとおしい彼の元に行きたかったからだ。 しかし勝手に帰ってしまうと亜紗子に何をされるかわからないので、真由子は形だけ退店を促したのだった。 亜紗子は、普段は普通の女性なのだが、一回怒り出すとしばらくは収まらず、よくて1ヶ月は口も利かない事になるのだ。 真由子はそれを恐れていたのだった。 |