日雇いくんだよ! HP

天女の誘い 第4回

 
 
 もちろん亜紗子も結婚後、夫以外の男に誘われなかったわけではなかった。
 だが、根が真面目な彼女は、夫に申し訳ないと、その誘いをことごとく振り切っていたのだった。
 しかし今夜は、状況が違う。
 亜紗子が操を立てるべき夫に、浮気の疑いがあるのだ。
 もしかしたら亜紗子も、今夜は乗ってくるかもしれない。
「えー、いいのぉ?」
 真由子が彼らに、笑顔を向ける。
「キレイなおねーさんたちにいてもらった方がさあ、ビールうまいしー」
「まーた、上手いこと言うなあ。じゃあ……」
 真由子が亜紗子の方をちらっと見る。
 歌ももうじき終わる頃だ。
「ちょっと、待っててねえ」
 真由子は陽気な様子の彼らにそう言うと、亜紗子の方へ歩いて行った。
「どーもー」
 歌が終わり、亜紗子がマイクでアイサツしている。
 歌い終わったせいか、表情が晴々としていた。
「ねえ亜紗子ぉ、あそこの彼が一緒に飲みたいっていうんだけど、どう?」
 上機嫌の亜紗子を狙うように、間をとって真由子が誘った。
「えー、もっと歌いたいー」
「いいじゃん。とりあえずあそこに行ってからまたカラオケ頼めばー」
「でもぉ……」
「亜紗子だってさ、たまには旦那さん以外の人と話するのもいいかもよぉ」
「あたし、そんな軽くないわよぉ」
「旦那さんだって遊んでるんでしょう。あなただって、たまにはいいんじゃないのぉ」
 真由子が、亜紗子の弱いところを突く。 
「うーん……」
 迷っている。
 亜紗子が顔を上に向けて、視線を宙に漂わせだした。
「どーしよっかなあ……」
(このままじゃラチあかないから、強引に連れて行っちゃえ)
 真由子が、迷っている亜紗子の隙を見て、おもむろに腕をつかんだ。
「さっ、行こうよぉ」
「ちょ、ちょっとお……」
 真由子がそのまま、力で、待ち人たちの座るボックスへと向かった。
「おねーさん、こっちこっち」
 野性的な方が、手招きしながら再び笑顔を真由子たちに向けた。
 よく焼けた肌に白い歯が、こぼれるように映えている。
 爽やかな笑顔だ。
 思わず真由子の顔が、緩む。
「もー、真由子ったらしょうがないなあ」
 勧められるままボックスシートに座ると、亜紗子がぼやく。
「まあいーじゃないのぉ。ね、おにいさんたちはこの辺なのぉ?」
 少ししかめっ面の亜紗子を軽くいなし、真由子が若い二人に話しかけた。
「俺はこの辺。でも、こいつは違うよ。今日俺が呼んだんだ」
 野性的な方が、うだつの上がらない方を指差しながら言った。
「あ、俺、野村っていいます。で、こいつが吉岡。」
 思い出したように、彼が名乗る。
 野村の右に座っている、吉岡と言われた彼がそれに合わせて、
「どうも……」
ペコリと、頭を下げた。
「野村さんと吉岡さんね。私、真由子。で、隣が亜紗子」
 左の亜紗子を手のひらで指しながら、真由子がお返しに名乗った。

 


第5回目に続く

 


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